『イタリアの街ガイド』第16回 アレッツォ 後編(最終回)

09/13/2018

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イタリア旅行コラム『イタリアの街ガイド』
アレッツォ後編  ~聖十字架伝を訪ねて~

 

トスカーナの地方都市アレッツォに観光客を惹き付けるピエロ・デッラ・フランチェスカの《聖十字架伝》の読み解き方を解説。


自前知識がないと解読するのが難しい作品だが、わかってしまうと、宝探しをする映画の主人公のように、歴史・宗教・宝物が絡み合った物語を読み解けるのが心地よい。


忘れられた高名な画家

フィレンツェから70キロほど南東に位置するアレッツォに来る人々の目的は、サン・フランチェスコ聖堂に描かれた、キリストが磔刑に処されたときの十字架の物語を表した有名な壁画を鑑賞するため。

今でこそアレッツォは、その名高い《聖十字架伝》のおかげで美術愛好家の聖地となっているが、作者であるルネサンスの画家ピエロ・デッラ・フランチェスカは、ほとんど忘れ去られた存在であった。

理由は簡単。彼の画風は、動きや表情の乏しい人物たちによって構成され、無表情の人物たちが突っ立っている一見不思議な感覚は、現代だからこそ理解できる感覚といえる。

 

戦闘シーンだというのに、覇気が感じられない不思議な感覚・・・
ホスローの敗北 《聖十字架伝説》の一場面。

 

 

《聖十字架伝》を読み解く

サン・フランチェスコ聖堂内陣の《聖十字架伝》が、ピエロ・デッラ・フランチェスコの代表作。1454~64年に描かれた。作家が芸術的な観点から各物語の配置を独自の配置にしてしまったため、右から左、上から下と単純に読み解いてゆけないものになっている。下記が読み取り順序。これは事前知識がないと、本当に読み取れない( ^ω^)・・・

ピエロ・デッラ・フランチェスカ《聖十字架伝》を読み取る順序



1.アダムの死

画面右側に頭をエヴァに支えられた年老いたアダムが地面に座っている。

同一画面に時系列が異なる物語が描かれており、画面中央は、損傷が激しいが、アダムの亡骸の口に植えた原罪の木の枝が、大木に成長し葉を広げているところが描かれている。

 

2.聖材の礼拝、シバの女王とソロモンの会見

成長した大樹をソロモン王が神殿建設に利用しようとし伐採するが、寸法が合わず橋として用いる。

ソロモン王の英知を聞きつけエルサレムに来訪したシバの女王は、この木に世界の救世主が架けられるだろうと予言する。

画面左橋として利用されている聖材を礼拝するシバの女王が、画面で髭の生えたソロモン王とシバの女王が会見している

 

3.聖材の運搬

ソロモンの命を受け、人夫たちが左下に見える穴に聖材を埋めようとしている。聖材を抱えている人物の頭の後ろの木目が、ちょうど光輪のように描かれ、キリストが十字架を運ぶ姿を予見させている。

 

4.受胎告知

この受胎告知の一場面だけで「キリストが生まれて、十字架に架けられましたよ」と、超早送りでキリストの生涯を表わしている

キリストが磔刑に処せられた十字架が、「アダムに由来し、そして中世に発見される」という壮大な物語を表わすことが目的のため、信者なら誰もが知っている、キリストの細かい生涯については、割愛されている。

 

5.コンスタンティヌス帝の夢

地中に埋められた十字架は長らく忘れられていたが、312年、「ミルウィウス橋の戦い」前夜のコンスタンティヌス帝が、「十字架の印によって勝利する」という夢をみる

コンスタンティヌス帝はキリスト教を公認した皇帝として有名。

 

 

6.コンスタンティヌス帝の勝利

天使から啓示を受けたコンスタンティヌス帝はローマ郊外のミルウィス橋で宿敵マクセンティウスを破る。

損傷が激しいが、画面中央で、髭の生えた馬上の皇帝が、小さな十字架を掲げているのを見てとれる。

 

7.ユダの拷問

熱心なキリスト教信者であったコンスタンティヌス帝の母ヘレナは、エルサレムに十字架探しに出かける。

どこに埋められているか人々に尋ねるが、知る者はなく、ユダという男が知っているという。

ユダに聞いてみたところ在り処を言わないため、井戸の中に入れ、ユダは一週間後、在り処を教える約束と引き換えに井戸から出してもらう皇帝のお母さんがすることじゃないと思うが…

 

8.十字架の発見と検証

ヘレナは、ユダに案内されてゴルゴダの丘で3つの十字架を発見する(画面左)、どれがキリストの十字架か分からない。

死んで間もない若者の遺体に3つの十字架を一つずつ掲げてみると、3つ目の十字架の時に若者は蘇り、探していた十字架がどれか分かる(画面右)

 

9.ホスローの敗北

時代は7世紀に飛ぶ。エルサレムに侵攻した異教徒のペルシア王ホスローは、ヘレナが発見した十字架を持ち去り自らの王座に据える。(画面左の王座の左横に十字架が見える。)

異教徒からキリスト教徒が十字架を奪還する戦争の絵。

ビザンティン皇帝ヘラクリウスは、ドナウ川でペルシア王ホスローに対峙し、打ち破り、十字架を持ち帰る。

 

10.十字架の称揚

一つ前の物語の戦争から、ビザンティン皇帝ヘラクリウス帝が、エルサレムに戻った図。

画面左側の十字架を掲げたビザンティン皇帝ヘラクリウス帝を、エルサレムの長老たちが跪いて迎えている。

 

十字架のその後…

ピエロの《聖十字架伝》では、下記のような伝説が表された。

■人間の原罪の元になったアダムの亡骸から、大木が育つ。
■時を経て、人間の原罪を直接的に受け継いだ大木に、キリストが十字架に架けられ、人類を代表して罪を一手に担う。
■キリスト教徒にとって大切な十字架は発見されるが、ペルシアに奪われてしまう。
■628年にビザンティン皇帝ヘラクリウスが異教徒から聖遺物を奪取。
めでたし、めでたし。(*´▽`*)

 

言い伝えではその後、十字架は分割され、1009年頃にはキリスト教徒によって隠され、再び長い間行方不明となった。

しかしその後、1099年第1回十字軍の際に金の十字架にはめ込まれた十字架の断片が発見され、エルサレム王国の最も尊い聖遺物となったという。
*

聖杯探しと並び、聖十字架もまた多くの人々を惹き付けて来た。アレッツォに訪れる美術・歴史ファンの足が途絶えることはなさそうだ。

 


今回をもって、
『イタリアの街ガイド』は、最終回になります。

長い間ご購読、応援して下さり有難うございました。

 

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サン・フランチェスコ聖堂 (アレッツォ)

 

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